谷三十郎てきな生活

なりきって生活するのはとてつもなく大変で楽しい

歴史人物を演じること。解釈違いの群雄割拠、あるいは知識マウントの血風録の中で。

Twitter上に歴史人物なりきり垢、という小さな世界がある。

 あれが結局何なのかというと、歴史人物がTwitterをやっている、という設定の下で行われるPR活動である。,

 勿論、言ってしまえば日本史上に名前の残っている全員になりきることができる。はじめるための資格は特にない。ただ運営上、その人物に対する見識はある程度なければ続かない。

 続かないという言い方をしたけれど、要するに埋もれてゆくのである。毎年大河ドラマが放送されるたびに、人気のメンバーは変わる。有名な戦国武将や幕末志士はやはりこっちでも大人気だ。最近は中世にスポットライトが当たっているものだから、その時代の人物が着々とタイムラインに進出している。

 そこで生き残るにはある種、創作者に似たアイデンティティを持ち得る必要さえあるのだ。我々も結構大変なのよ。

 

 しかし、大物芸能人や政治家でさえSNS上でトラブルに巻き込まれる時代である。この界隈は特に揉め事が多いな、と感じている。殊に解釈違いや知識の差からくるリプライ合戦が凄まじい。

 僕は平和主義者なので、そういう言い争いには基本的に参戦しない。ああいうのは勝つとか負けるとかではないのだ。それに我々はその人物のファンではあっても、その人物本人ではない。

 よって、数年前徳川慶喜公に「家臣を置いて逃げた卑怯者!」と執拗にリプライを送っていた者がいたけども、見当違いである。我々の活動はどこまでいっても二次創作の枠を出ない。つまるところ同人作家である。同人作家に本編の愚痴を言われても、知らんのである。

 

 特に人気な歴史人物になると、こうした揉め事も多くなる。そうしているうちに、我ら新選組界隈にもその「揉め事」がやってきた。

 例によって数年前のことであるし、別にその人物を晒したいわけでもないので概略だけ述べると、新選組のなりきり垢のほぼ全員にアンチが湧いたのである。

 確か当時はやっていた質問箱だったろうか。

 匿名でそのアカウントに質問を投げかけるサービスを利用され、そこで誹謗中傷が多くやってきた。

 ここで隊士たちそれぞれの反応が、また違っていたのも面白い。

 一切反応せずどっしり構えたK.I、自論を展開するY.K、徹底抗戦のH.T…

 と、面白がっている場合ではない!

 

 なんとそのマメなアンチは、この谷三十郎にも誹謗中傷を投げかけたのである。

 歴史に正解はないから、百人いれば百通りの解釈があるだろう。とすれば、それだけ解釈違い問題が生まれるということである。

 じゃあ聞くが、谷三十郎にそんな解釈持ってるやつ、いるか?

 歴史は常に更新されていき、さらに深堀をはじめればきりがない。浅い知識で歴史を語れば、たちまち有識者たちの餌食である。

 じゃあ聞くが、谷三十郎で知識マウント取りたいやつ、いるか?

 

 そう怯えながら、僕は「質問箱」を開いた。

 そこには短い文章で、だが激烈な批判が書いてあった。

 

 「語尾が変」

 

 至極真っ当なご意見にござる。確かにこんなにござるござる言ってるのは、戦国武将にもおらぬでござる。

 だが前述したように、我々はアイデンティティを持ち得る必要があるのでござる。

 この「ござる」が、僕という谷三十郎が勝ち得た称号なのでござる…。