谷三十郎てきな生活

なりきって生活するのはとてつもなく大変で楽しい

続々増える「谷三十郎」。

ごろの新選組界隈は、どうしたことだろうか。数多の作品で、それまで見向きもされてこなかった「谷三十郎」が登場しているではないか!

 それこそ「薄桜鬼」や「ツワモノガタリ」で登場している谷三十郎だが、僕はこの二人の三十郎が所謂シンクロニシティを起していることを特筆したい。

 

 両者の特異性を明確にするため、谷三十郎の一般的なイメージを羅列する。

 ・槍の達人(とはいえ幹部陣に比べると実力は下)

 ・末弟(昌武)を近藤勇の養子にしたことで、天狗になっている。

 ・家柄を鼻にかけ、皆から嫌われている。

 とまあこんなものではないか。

 

 従来の「三十郎」は、これに沿った人物像が描かれてきた。特に司馬遼太郎などは(明らかに彼の好みには合わない人物ではあるものの)散々な書きようである。

 すなわち近藤のような立場が上の人間には、養子を出すなどして諂い、しかし家柄を鼻にかけているワケだから、内心では新選組の事を見下している。

 目上への露骨な媚、そして内心での侮蔑。こうして人物像を抽象化してゆくと、創作における武田観柳斎と似通ったところがある。

 そのせいもあってか「壬生義士伝」などでは、ほとんど合一化された。

 谷三十郎×武田観柳斎という、最強の迷惑キメラの誕生である。なお、ポケモンの理屈でいうと「斎藤一」が四倍弱点になるようで、瞬殺された。

 話を戻すが、とにかくこうした露悪的なキャラが、ある種三十郎の魅力でもあったのである。史実で酒好きだった逸話もそれに拍車をかけている。

 

 では「薄桜鬼」「ツワモノガタリ」の三十郎がどのように特異なのか。

 これはもう、両者ともにビジュアルや、ごくわずかなコマの描写で推察するしかないのだけれど、不思議と彼らには取り繕った様子が無いのである。

 というのはつまり、実力が低いのを無理やり威張った風がない。

 しかも「薄桜鬼」の方の、彼の解説を読んでみるとこんなことが書いてある。

七番組組長。大坂で剣術槍術の道場を開いていたが新選組に加入する。元備中松山藩士で、武士の所作に詳しく知古も多い。谷三兄弟の長兄

(引用元ホームページはこちら:薄桜鬼 真改 天雲ノ抄

 これまでの三十郎は、史実のすべてをネガティヴに解釈され続けられたきらいがある。少なくとも彼は二十年以上、備中松山で武士として暮らしているのだ。

 しかし「お家断絶」という事実で(これもそもそもは万太郎の不祥事という説を僕は推しているが)打ち消されてしまっていた。

 それがここになって「武家の所作に詳しい」という、なんともポジティブな解釈をもって登場したのである。

 

 また「ツワモノガタリ」の三十郎も、ポジティブな解釈である。というより、これに関しては今までの作品がネガティブすぎたのだが。

 ここで登場してくるのが原田左之助である。

 原田左之助が谷の道場で学んだことは、永倉新八が記録に残している。だというのに彼らは驚くほど関係性が描写されない。

 殊に大河ドラマなどは明確に「実力は原田>谷」と言い切っている。

 その点「ツワモノガタリ」は、原田が谷の道場を訪ねるシーンが描かれている。そこで待っていた谷三十郎も強キャラ感満載である。

 願わくばこうした作品が世に羽ばたくことで、谷三十郎が決して地味な悪役でないと認識されれば、僕としてはこんなに嬉しいことはない。

 そしていつか、谷三十郎の映画なりが作られた時!

 僕のところにそこの関係者から「谷三十郎の黎明期以前から彼を推していた貴方に是非、出演して欲しい」と連絡が来るのである!

 そして七番組隊士としてしれっと出てくるのが、僕の将来の夢なのだ。