終わらない、暴露
ハッシュタグのネタはとても助かる。生来、何かに便乗した方が一から考えるより、面白いことが言えるのだ。
ある日「#1いいねごとに私のどうでもいい情報教える」というタグを見つけて、今日はこれだ、と思った。
その時一緒にツイートしたのは「梁塵秘抄」からの引用。「海には万劫亀あそぶ 蓬莱山をやいただける」。大河ドラマで工藤祐経が歌っていた箇所である。
初っ端に二つほどいいねがついたが、果たしてどんな「どうでもいい情報」を呟くか。谷三十郎についての史実を並べたって、物知りな方々にとっては「あーそれね」と、面白くない。それにそれは決して「どうでもいい情報」なんかじゃないからだ。
そんなわけで私は「確定申告が苦手だ!!」と言うようなことを書いた。(一応ことわっておくと、幕末に確定申告はない)
続いて毎朝忘れ物をするということも書いて、準備万端! あとは谷三十郎の内臓としての私のとてもどうでもいい、でもリアルで、「わかるわかる」と思ってもらえることを書き連ねるだけである。
幕末の侍がめちゃめちゃ現代のしょうもない悩みやエピソードを語るって、なんだか面白いんじゃないか? と自分の誤算に気づく前の私は思っていた。
その誤算とは、いいねが10件を超えた後のことを想像しなかったことである。
結果として日を跨ぎながらも、完璧主義なために律儀にまる数字付きで情報を更新している。これではせっかく新選組を愛してやまない新米の歴史オタクが、私のアカウントを見た時に誤解をしてしまう。「歴オタで地味な男あるあるbot」だと思ってしまう。
そう思った私ネタの舵をぐるりときって、谷三十郎のパーツ解説を始めた。
(例:「谷三十郎足」お酒の飲みすぎて常に千鳥足だ!)
昔の「ウルトラマン図鑑」とか「ゴジラ大辞典」で見たようなノリである。
それは他のよりちょっと反応が良かった。
そして益々いいね数が増えた。2022年4月7日現在、総いいね数は42件。
他の参加者のみなさんは、一つのツイートに三つや四ついっぺんに呟いたり、早々に切り上げて他のネタや創作に精を出しておられる。
だが谷三十郎も漢でござる。一度やりはじめたからには、貫き通すのでござる。
にしても自分の暴露ネタというのは、中々難しい。あんまり恥ずかしいのは書きたくないし、だからって適度に恥ずかしくないと面白くない。
そうして毎日、朝起きるたびに暴露のネタが何かないかと自分を見つめ直すのである。
そしてそのたびに自分の恥ずかしい過去を思い出し「うわ〜〜〜!」と唸るところから、今日も谷三十郎の一日が始まるのだ。
谷三十郎、いつもありがとう
Twitterで「谷三十郎」をやり出して、もう2年か3年が経った。これは飽き性な私にとって、とてつもなく長い期間である。
そんな私はもちろん三十郎さんではないし、彼の遺族というわけでもない。言うなればなんの変哲もない、新選組がとっても大好きな一人の男なのです。
私は新選組がとっても大好きだ! まず浅葱色のだんだらといい、黒装束といい、制服がきっちり決まってるのが良い。
ずらっと並んだ時の統率感。そして、そこから溢れかえってしまうばかりの各々の濃ゆいキャラクター! 今や新選組のイラストなんかを見ると即座に「この人が土方だな」「この人は沖田っぽい顔をした藤堂だな」とわかるほどである。
では、私が名乗ってる「谷三十郎」はというと、日本中の誰も、顔だけで判断することは不可能である。もちろん、槍を持っていて原田左之助より地味だったり、酒を持っていて芹沢鴨より細身だったりするとそいつが「谷三十郎」の可能性が高い。
しかし肩から上だけの集合絵になると、もはや100%探し出すことは不可能だろう。
そんな谷三十郎さんだが、新選組では結構小物になりがち。弟を養子縁組にして威張り散らしたから、組では嫌われていたというのが通説だ。
そもそも小物が好きな私は、ここで彼を好きになった。
そして調べていく上で、彼の兄弟や遺族が誰も彼を悪く言ってないことも「好き」に拍車をかけた。
つまり彼は、小物として語られてるけどもしかすると、それなりに人物のできた人だったんじゃなかったか。
「威張り散らす」という表現でピタリと当てはまる人間を、私はドラマや漫画などの創作以外では見たことがない。現実では自分が「威張っている」という自覚がないし、その人を「威張っている」と思う時は大抵、自分のコンプレックスからくるプライドがそう見せているからだ。
たしかに彼の家は当時にしては結構いいとこだ。でもお家断絶されているわけだし、血筋を誇るなら何も有象無象の浪人たちが集まる新選組で、しかもそのトップに養子縁組なんてしなくて良いのである。
すなわち後から入ってきたのに、養子縁組をして出世したことに対して誰かが「威張っている」とイラついたのが真相なんじゃないだろうか。
周りは「血筋がなんだ、俺たちゃ腕でのしあがるのよ」という若者たち。
その幹部たちは江戸の頃から親しいグループ。
そして尊王攘夷という思想の下につどったグループ。
やられ役の小物として描かれる谷三十郎には、そのどこにも入れない孤独と哀愁を、たしかに感じるのである。
養子縁組の理由も、ひょっとしたら根っこはそういうとこなのかもしれない。
そんな谷三十郎さん、いつも名前を使わせてもらってありがとう。主役映画は無理でも、脇役とはいえいい味出してる映画、待ってます。